2025.01.28 COIL
この秋より開始した Inter-island Sustainability Lecture Series の第4回目として、石原昌英氏(琉球大学)、大原由美子氏(ハワイ大学ヒロ校)、李佩容氏(国立東華大学)による、COIL型講義を実施しました。
【タイトル】”Our” Languages: Preservation and Revitalization(「私たち」の言葉:保存と復興)
【講 師】石原昌英氏(琉球大学)、大原由美子氏(ハワイ大学ヒロ校)、李佩容氏(国立東華大学)
【日 時】2025年1月25日(土)10:00〜11:30
【方 法】Zoomによるオンライン開催
【概 要】
本講義では、「「私たち」の言葉:保存と復興」をテーマに、沖縄、ハワイ、台湾における言語保存と復興の取り組みについて扱いました。ここでいう「私たち」の言葉とは、沖縄のうちなーぐち、ハワイのハワイ語(ʻŌlelo Hawaiʻi)、台湾の台湾諸語(Formosan Languages)を指します。3名の専門家による講義を通じて、各国・地域が直面する言語の保存や喪失に関する課題、それに対する教育的・文化的な取り組みについて、知見の共有と議論がなされました。
最初に、ハワイ大学ヒロ校の大原由美子氏から、ハワイ語の歴史的・社会言語学的特徴と、その保存および復興の取り組みについて講義がありました。ハワイ語は19世紀のハワイ王国時代に教育や行政、家庭内で広く使用されていましたが、1893年の王国崩壊とその後の英語使用の拡大により、話者人口が激減しました。しかしながら、1980年代以降、「ハワイ語復興」が興り、非営利の教育団体であるプーナナ・レオ(Pūnana Leo)の各地での設立や、ハワイ大学ヒロ校による一貫したハワイ語教育プログラムの提供が進んだことで、話者人口の増加が実現しました。ハワイ語復興が大きく進んだ一方、大原氏は現在でもハワイ語教師の不足や使用領域の拡大が課題として残っていると指摘しました。
次に、琉球大学の石原昌英氏からは、沖縄の言語「うちなーぐち」が辿った歴史と、それを学び直し、発することの効果について語られました。石原氏は、幼少期にうちなーぐちを話すことが禁じられた経験や、日本語の標準化政策により「方言札」による抑圧の影響について触れ、母語の喪失が個人や世代を超えたトラウマをもたらすことを指摘しました。それに対して、うちなーぐちを学び、取り戻すことによって、文化的アイデンティティの強化や地域社会の活性化のみならず、個人の心身の癒しにも貢献することが具体例を交えて示されました。
最後に、国立東華大学の李氏からは、台湾諸語の現状とその復興に向けた取り組みについて報告されました。台湾諸語はオーストロネシア語族に属し、その多様性から「台湾の世界への贈り物」と呼ばれています。しかし、日本による皇民化政策や、1950年代からの国語化政策の影響によって話者人口が減少しました。そのような状況を受け、台湾では台湾諸語を手軽に学ぶことのできるデジタル教材やeラーニングなどの先進的な手法が開発・活用されており、李氏が所属する国立東華大学では言語学とマスコミュニケーションを融合した教育を展開しています。同大学では、12以上の先住民言語に対応した教育プログラムを提供し、言語保存に積極的に取り組んでいることが紹介されました。
本学およびハワイ・台湾の連携校から参加した学生たちからは、以下のような感想が寄せられました。「言語と文化やコミュニティの深い関係性について理解が深まった」という声が多く聞かれ、各地域が直面する歴史的・社会的課題の中で言語復興がどのように進められてきたかや、ローカルレベルから政府規模に至る多様な取り組みに感銘を受けたという意見もありました。また、島嶼地域における言語継承では、若者や外部の人々を巻き込むことの重要性を感じたという感想も見られました。さらに、講演者が自身の語りや物語を引用しながら行ったプレゼンテーションに感動したとの声や、ハワイ・沖縄・台湾の状況を比較する視点を得られたことが非常に良い経験になったという評価もありました。今回のCOIL講義を通じ、「言語保存の取り組みに自ら参加し、学び続けたい」という意欲を示した学生もおり、講義の意義が深く共有される貴重な機会となりました。
これまでの講義内容は以下のリンクからご覧いただけます。
第1回:元ハワイ沖縄連合会会長・琉球大学顧問のLynn Miyahira先生によるCOIL型講義を実施
第2回:カピオラニ・コミュニティカレッジのKelli Nakamura先生によるCOIL型講義を実施
第3回:ハワイ大学マノア校のKyle Kajihiro先生によるCOIL型講義を実施